不動産は国民生活や経済活動を支える重要なものであり、今までもこれからも、普遍的な役割を果たしていくことが期待されています。
日本では、東京オリンピック・パラリンピックが予定されており、今後10年程度の間にさまざまな社会経済情勢の変化が予想され、不動産を取り巻く状況は大きく変化していくでしょう。
日本全体の課題である、急速に進む少子高齢化・人口減少による高齢者単身世帯の増加によって、各種不動産の需要層が変化することも考えられます。
これらの課題を含むさまざまな情勢に伴い、国土交通省では新たな不動産業ビジョンが策定されたのです。
そこで今回は、平成31年(2019年)4月に策定された、「不動産業ビジョン2030」のなかから、不動産の現状と変化、将来について紹介します。
ここでは、不動産業ビジョンにおける、「不動産の開発と分譲」「賃貸」「不動産投資と運用」の3つに焦点を当てて現状を紹介します。
現状を把握することによって、今後の需要や傾向などを鑑みることができるでしょう。
<開発・分譲の現状>
分譲住宅の着工戸数は、戸建て・マンションともにリーマンショックの影響により大きく落ち込みましたが、その後戸建てに関しては、リーマンショック前の水準並みに回復しています。
一方、マンションの着工戸数は約10.8万戸となっており、リーマンショック前の水準には戻っていません。
また、東京23区内のオフィスについては、延床面積5,000坪以下の中小規模ビルはバブル期に竣工した物件が多く、5,000坪以上の大規模ビルは同時期以降も供給が継続しています。
都市開発においては、バブル崩壊後の大都市地域で工場などの跡地の利用転換が進み、都内では六本木や恵比寿、丸の内において、都市再生事業が進められました。
地方部では、まちの顔となる商業施設を中心に「駅前の再開発」「公害大規模遊休地の区画整地」などが行われており、地域の実情に応じた施設・住宅に関する整備が進んでいることがわかりました。
<賃貸の現状>
不動産の「所有から利用へ」の流れ、シェアリングエコノミーの台頭などを踏まえ、賃貸不動産に対する借り手のニーズは、今後多様化していくことが予想されています。
賃貸住宅は、外国人や単身高齢者などの世帯にとって生活の場でもあり、民営の賃貸住宅ストックは、国内の「居住されている」住宅ストックのうち約3割を占めていました。
賃貸オフィスに関しては、三大都市圏や地方主要都市において、リーマンショック後の空室率は回復傾向にあり、低い水準で推移しています。
また、働き方改革に伴いコワーキングスペースやシェアオフィスなど、業務の生産性向上を支えるオフィス環境が求められています。
<不動産投資・運用の現状>
不動産投資と運用に関しては、
・不動産特定共同事業法
・特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律
・投資信託及び投資法人に関する法律
・資産の流動化に関する法律
上記の4つの法律の制定により、不動産証券化に関する制度が整備され、不動産投資市場が拡大しています。
昨今の不動産業では、不動産のそのものの価値上昇ではなく、資産が生み出す価値に着目されていることが特徴です。
さらに、証券化手法の活用により、一定の流動性が付与されており、多数の投資家の参加を得て、リスク分散を図ることが可能になりました。
市場環境の変化は、日本国内における課題が反映されています。
ここでは、社会経済情勢による変化と、不動産市場の変化、この2つの側面から見た市場環境の変化に注目してみましょう。
<社会経済情勢の変化>
以下9つが、社会経済情勢による市場環境の変化としてピックアップされているものです。
1.少子高齢化・人口減少の発展
2.空き家・空き地等の遊休不動産の増加・既存ストックの老朽化
3.新技術の活用・浸透
4.働き方改革の進展
5.グローバル化の進展
6.インフラ整備の進展による国土構造の変化
7.地球環境問題の制約
8.健康志向の高まり
9.自然災害の脅威
特に、南海トラフ地震・首都直下地震は、今後30年以内に発生する確率が約70%ともいわれており、家屋倒壊、市街地火災、インフラの断絶といった、甚大な被害をもたらす可能性があります。
さらに、地球温暖化に伴う気候変動で、風水害や土砂災害といった自然災害が頻発するとも予想されています。
都市部では、利便性や効率が向上している反面、防災・減災対策が重要視されており、昨今の市場変化に大きな影響をもたらしているでしょう。
<不動産市場の変化>
そして、不動産市場による環境の変化は以下の3つ。
1.消費者ニーズの変化
2.企業ニーズの変化
3.投資家ニーズの変化
高齢者の単身世帯増加は、10年、20年先さらに増加し、単身者向け賃貸住宅の需要が高まるでしょう。
単身世帯は高齢者だけではなく、各都市部では外国人・独身者の増加など多様化が進み、あらゆる人が暮らしやすい住宅と地域づくりが進められています。
<国土の姿に対応した不動産業の役割とは>
東京・大阪といった大都市においては、国内外の「ヒト・モノ・カネ・情報」が集まり、交流と対流を促す魅力的なまちづくりが不可欠です。
国際的なビジネス、インバウンドといったことを重視しつつも、多様性を重視した都市圏を形成していかなければなりません。
地方都市においては、東京圏への人口流出を防ぎつつ、地方都市の魅力を生み出しつつ、同時に郊外地域の活性化を図っていきます。
このように、それぞれの地域の実情にあった対策・制度が各自治体で設けられており、需要と時代にあった市場の変化があるのです。
上記では、不動産業における現状と市場環境の変化について紹介しました。
ここからは、不動産業ビジョンに記されている不動産業界の未来・課題について紹介します。
<不動産業の将来像>
不動産業における市場変化を踏まえて、以下3点が、果たすべき役割・期待される将来像として示されています。
・豊かな住生活を支える産業
・我が国の持続的成長を支える産業
・人々の交流の「場」を支える産業
不動産業は、住まいに関する国民の多様なニーズに的確に応えながら、国の経済活動の維持・成長を支えることが期待されています。
空き家を利用した古民家カフェやワークショップといった、憩いの場の提供も可能で、人のつながりを作りだすことも、不動産業に期待されているのです。
<官民共通の目標>
不動産業の将来像を踏まえたうえで、不動産業に携わる官民の関係者すべてが共通して目指す具体的な目標は以下の7つです。
・「ストック型社会」の実現
・安全安心な不動産取引の実現
・多様なライフスタイル、地方創生の実現
・エリア価値の向上
・新たな需要の創造
・すべての人が安心して暮らせる住まいの確保
・不動産教育・研究の充実
これらの目標は、社会情勢に合わせたものであり、将来の日本、各自治体が維持していくために重要なものといえるでしょう。
<2030年に向けて重点的に検討しておきたい政策課題>
不動産業ビジョンの検討過程において、2030年頃までに重点的に検討しておきたい課題をピックアップしています。
上記で紹介している官民共通の目標となるものをさらに細分化し、不動産業の将来から見る具体的な目標が掲げられていました。
不動産業ビジョンにおいては多岐にわたって記載されており、ここではすべてを紹介することはできませんが、私たち国民全般や、投資家、不動産経営者といった、あらゆる人たちに対する方策が定められています。
不動産業ビジョン2030の政策課題や、現状などを知りたい方はこちらのデータをチェックしてみてくださいね。
不動産業は、日本の情勢を踏まえながら、将来の日本を担う重要な役割を持つといえます。
そして国土交通省の不動産業ビジョンにおいては、国内の課題を解決するための対策をまとめており、日本全体をよりよくするための情報が掲載されていました。
私たちはもちろん、次の世代が暮らしやすく、多様で柔軟な対応ができる日本を目指すために、不動産から見る対策はかかせない要素です。
不動産業ビジョンでは2030年に向けての目標が書かれていますが、20年後、50年後といった未来のために、今からあらゆる取り組みが期待されています。