東京都が掲げる「みどりの取組」をご存知でしょうか。
年々減少傾向にある都市部のみどり(草や花・木々など)を創出することを目標に掲げられた施策のひとつです。
東京都が掲げる「みどりの取組」とは、平成29年9月に策定された都市づくりのグランドデザインに基づいて、みどりに関する取組をまとめたもののことです。
「みどりの取組」について掘り下げる前に知らなくてはならないのが、現在の東京都のみどりの現状です。
現在の東京都のみどりの現状は、次のとおりまとめられています。
・公園や緑地は着実に増加傾向にある
・都市開発による公開空地や街路樹などの緑も増加している
・大規模開発がおこなわれている多摩部などでは樹林地や農地が減少している
結局、みどりは増えているのか減っているのかわかりにくいので、数字で見てみると、平成15年からの10年間で東京都全体のみどり率はおよそ2%(約3,100ha)減少しています。
こうしたデータから、現状の緑を守りつつあらゆる場所に緑を創出するために「みどりの取組」が掲げられたのです。
この取組は、みどりが減少傾向にある区部や、都市開発が著しく進行している多摩部で特に意識されており、都市計画などに基づいて都の所管局や区市町村との役割分担を明確にし、着実に推進していくとされています。
東京都はこの「みどりの取組」において、2040年代までに東京の緑の量をこれ以上減らさないことを目標に掲げています。
現状の東京都のみどり率は50.5%といわれていますが、先述のとおり都市開発などによって、その数字は年々減少している傾向にあります。
そもそも、みどり率とは、どのようにして求められているのでしょうか。
概要:みどり率とは地域全体に占める緑と水の面積割合のことで、次の5つの項目から成ります。
①
樹林/原野/草地(宅地内の緑や街路樹を含む)
②
農用地
③
公園/緑地(緑で覆われている部分)
④
公園/緑地(緑で覆われていない部分)
⑤
水面/河川/水路
みどり率のなかでも①~③の合計を緑被率と呼び、これが普段わたしたちが緑と認識するエリアであるといえます。
逆に、④や⑤のように緑が実際には存在していないエリアでも、みどり率に含まれています。
東京都はこのみどり率の推移から、特に注力すべき点を次のようにまとめています。
・公園/緑地の着実な整備(宅地の公園化は量に寄与・樹林や原野の公園化は良質な緑に寄与することを想定)
・減少が顕著である農地の保全維持
・都市開発諸制度などの活用による民有地のみどりを拡充
・緑化地域の指定によるみどりの量の底上げ
ここからは、「みどりの取組」によって上記の点がどのように注力されていくのか、その方針に注目していきます。
東京都は「みどりの取組」に掲げた目標に向かって、大きく分けて4つの方針を定めています。
概要:「みどりの拠点の形成」「みどりの軸の形成」「環七周辺から環八周辺のみどりのネットワークの充実」の3つを主目標としており、それぞれ取り組むべき主要施策が定められています。
①
みどりの拠点の形成
・「都市計画公園・緑地の整備方針」を改定し、新たに優先して整備する区域を定める
・民間開発の機会を捉え、都市開発諸制度などの活用によりみどりを創出していく
・都市再生特別地区などの活用により、丘陵地や崖線などの骨格となるみどりの厚みと繋がりを強化していく
②
みどりの軸の形成
・都市開発諸制度活用の方針改定において、緑化推進エリアに水辺の軸及び南北崖線を追加
・東京オリンピックに向け、マラソンコース沿いの街路樹の樹冠拡大。オリンピック後は遺産として、良好な樹形を維持し整備を続けていく
・旧河川敷の土地などを活用し、緑地の創出や植栽などに関する調査及び検討に着手する
・「緑確保の総合的な方針」を改定し、東京の緑の骨格となる崖線・丘陵地・河川などにおいて、守るべき緑を新たな確保地に位置付ける
・自然公園における植生回復や外来種対策など、積極的な自然環境の保全及び再生に努める
③
環七周辺から環八周辺のみどりのネットワークの充実
・環七周辺から環八周辺の防災に資する大規模公園の整備推進により、緑のネットワークを形成する
概要:減少傾向にある農地において、営農としての活動を支援するなどの方針が定められています。
代表的な施策に注目してみましょう。
①営農継続の支援
・生産緑地としての面積要件の引き下げ(500平米→300平米)
・新規就農者の確保及び育成
・規模拡大を希望する農業者への経営支援 など
②農地の賃借の促進
・昨今、個人的な菜園を行いたいという需要が多くなっておりその斡旋を促進する。
具体的には、納税猶予などの制度を受けられるような取組の強化に努める。
③ 公による生産緑地の買い取り
・都市計画公園や緑地内の生産緑地について買取申出が区市に出された場合、用地取得費の補助を東京都がおこなう。
具体的には、農業公園とするなど農的な利用を図る場合には整備費の75%の補助をする。
概要:緑化が進みにくい都市部においても、緑の増加や質の向上を図ることを目標としています。
まちづくりや景観などを意識した取組によって、みどりの取組に寄与することが期待されています。
①
みどりの量的な底上げ
・都市緑地法の改正により、建ぺい率によらず緑化率の最低限度の基準が設定されることとなったため、今後建ぺい率の高い地域でも緑化面積の増加が予測されている
・建築基準関係規定としての位置づけにより、法的な義務化となるため、公平性が目に見えるようになることで実効性が向上する
・緑化地域制度で確保された緑は、建築物が適法に存続するための必要要件となるため建物が維持されている限り永続的に緑化が担保される
②
質の高い緑の創出
・民間企業と連携し、大規模な都市公園などと連携させたまちづくりをおこなうなど積極的な活用を推進する
概要:みどりが都市の基盤となり、季節問わず緑があふれ快適に過ごすことができる都市空間の形成を目標としている。
①
公共が保全・創出するみどり
・区役所など公共施設において景観に寄与する壁面緑化などを推進
・保全地域の指定及び当該地域における生物多様性の保全
②
民間が創出するみどり
・NPO法人や企業などが、空き家・空き地を活用して公園と同等の空間を創出することを推進。
具体的な例として、千代田区の東京ガーデンテラス紀尾井町や大手町ファーストスクエアなどが挙げられる。
・都市計画法に基づく開発許可基準の強化に伴い、農地の開発を抑止する。
③
空き家対策とみどりの創出
年々増加傾向にある空き家対策の一環として、みどりの創出を進めていくことを目標としている。
所有者不明の空き家の庭などを区市町村が管理し、家庭菜園や地域住民の交流の場として提供することが想定されている。
こうした取組を推進する区市町村に対して、東京都は財政的な支援をおこなっていく。
「みどりの取組」におけるこうしたさまざまな方針・目標によって、減少傾向にある東京都のみどりは今後増えていくこととなるでしょう。
東京都が推し進めるこの「みどりの取組」によって、今よりもさらに住みよい環境へと変化していくことでしょう。